大阪高等裁判所 昭和39年(ラ)229号 決定 1966年2月11日
抗告人 藤原雄介
同 藤原小春
右両名代理人弁護士 滝逞
相手方 神和信用金庫
右代表者代表理事 大西甚一平
右代理人弁護士 中原保
同 中原康雄
主文
原決定はいずれもこれを取消す。
本件競落はいずれも許さない。
建物の競落許可決定に対する抗告人雄介の抗告を却下する。
抗告費用は相手方の負担とする。
理由
一、本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。
二、当裁判所の判断
(一) 宅地の競落許可決定に対する抗告人雄介の抗告について
記録中の昭和四〇年九月三日付および同年九月一三日付二通の土地登記簿謄本ならびに評価書によると、本件競売土地は一七一坪一合三勺であるにかかわらず、競売期日の公告には当時の登記簿上の地積であった一〇一坪四合八勺と表示されていること、鑑定人の評価も坪三万円として合計金三〇四万四、四〇〇円と評価され、これが最低競売価額とされたものであることを認めることができる。
ところで、競売期日の公告に不動産の表示を記載するのは、単に不動産の同一性を明らかにするだけでなく、その不動産の現況をも表示してこれを周知させる必要があるから、右のように、公告に記載した土地の坪数が登記簿の記載と同一であったとしても、実際の坪数と著しく相違するときは、不動産の正当な表示があったものといえない。
また鑑定人の評価も、実際の坪数が一七一坪一合三勺であるとすれば更に高額となることが予想され、したがって最低競売価額についても同様である。
以上のとおりであるから、本件競売期日の公告には民訴法六五八条一号、六号の表示を具備しない違法があり、原決定は取消を免れない。
(二) 建物の競落許可決定に対する抗告人両名の抗告について
1、戸籍謄本、昭和三八年四月二二日付建物登記簿謄本および根抵当権設定契約書によると、本件建物はもと藤原団蔵の所有であったが、同人は昭和三五年八月二日死亡し、抗告人両名、大岩登幾子、藤原恭子が各六分の一、藤原ツイが三分の一の割合で相続したこと、そして同人らから出口一成に売買名義で所有権移転が行われ、出口一成によって相手方に対し本件根抵当権が設定されたことを認めることができる。もっとも昭和三六年二月二三日付不動産の所有権確認契約公正証書によると、右所有権移転は通謀による虚偽表示ではないかとの疑もないわけではないが、仮にそうであるとしても、抵当権者である相手方はこの点について善意であると認められるから、抗告人らは虚偽表示であることを相手方に対抗することはできない。
そうすると抗告人ら両名は本件競売手続において、本件建物の所有者であるということはできないから、これを前提とする抗告人雄介の抗告は不適法であり、抗告人小春の主張は採用することができない。
2、そこで抗告人小春が本件建物の最高価競買申出人であることを前提とする同人の主張につき検討するに、本件競売建物には前記根抵当権設定後競売申立前に、相手方を権利者として、債務者が本件被担保債務を弁済しないときは期間三年の賃借権が発生する旨の停止条件付賃貸借契約が締結され、これを原因とする賃借権設定仮登記を経由していることを認めることができ、債務者の不履行により右賃貸借が発生したものというべきである。そしてこのような仮登記権利者は競落人に対し本登記手続をするよう請求することができ、本登記せられたならば仮登記のときにさかのぼって対抗力を生ずるのであるから、このような賃貸借も競売期日の公告に記載することを要するものといわなければならない。もっとも仮登記は本登記について順位を保全する効力を有するだけで、それ自体第三者に対する対抗力を生ずるものではないから、競売期日の公告に掲げることを要しないとの見解もあるが、右公告に賃貸借を記載する目的の一つは、競落人に不測の損害を与えないようにすることにあるから、前説を相当と考える。
そうすると本件競売期日の公告は民訴法六五八条三号の記載を欠き違法であって、右理由にもとづき最高価競買申出人として、建物競落許可決定の取消とその競落不許を求める抗告人小春の抗告は理由がある。
よって抗告費用について民訴法八九条、九二条を適用し、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 金田宇佐夫 判事 日高敏夫 中島一郎)